2023年夏の思い出

 去年の9月に車を買ってから最初の夏、どこに行くにも車だった。車があるおかげで行き先の選択肢が膨れ上がり、走りに走った。

 どうしても印象的な場面も車に乗っていたからこそのものが多いのだが、中でも軽井沢の山道で目の前を鹿が数頭横切っていったのはちょっと感動した。これが帰り道のことで、どこからの帰りかと言えば二泊三日で飛騨高山と富山をまわったあと、軽井沢のプリンスショッピングプラザに立ち寄ったあとの最終的な帰路である。疲れた脳にしなやかに目の前を横切っていくそのシルエットがだいぶ刺さったのだろう。よく鹿が神秘的に、美しく描かれることがある理由がわかった気がする。なにかの映画で唐突に鹿がこういう道路脇に現れて疲弊した主人公がかたまるといったシーンを見たことがある。小さすぎず、また大きすぎず、単なる獣とも違う。ああいう野生の動物を真近に見たのはこれが初めてだ。道を横切った鹿たちは、道路脇の草地に立ち止まり、通り過ぎるルノー・トゥインゴをじっと見つめていた。左側だったから、運転席のぼくからはよく見えた。すぐに逃げればいいのに、というかそうすべきなのに、あの一種の余裕みたいなポーズはなんだったのだろう。

 その後日、川遊びで子どもたちとウォーターガンを撃ち合うぼく。結局この夏はウォーターガンを三丁も買ってしまった。こういう大荷物で水辺まで行けるのも車のおかげか。

 人生で初めてレジャープールに行く。流れるプールだとか、波ができるプールだとか、そういうのに入ったのも初めてだった。日焼け対策が甘かったため、肩から背中が低温調理みたいになってしまい一週間くらい非常に傷んだ(赤紫色になって触ると痛いくらいで、服を着るのも辛かった)。最終的に皮が綺麗に剥けたのでよかった。

 お盆のあとに地元に日帰りで戻ってみたが、やはり帰りの山道で動物を目撃する。道路脇の草むらになにかツルツルしたお尻のようなものがいるのをヘッドライトが照らしたかと思うと、そのがっしりした体躯からすぐに猪だとわかる。でも、猪ってもっと毛深くないか?どこかで飼われている豚が家のそばで草をはんでいるのだろうか?あとで調べると、やはり猪で合っていた。夏毛は豚のように薄いらしい。道理でツルツルお尻なわけだ。夜道で遭遇する動物は皆強烈な印象を残すものらしい。
 そのほかにも恐竜図鑑展を観たり、マティスを観たり、初めて税理士の厄介になったり、ラジオに出たりなどしたが、とりあえずはこんなところである。今疲れがこの夏の一気に来ている気がする。ぼうっとしているとあっという間に誕生日が来て、ハロウィーンが来てしまう。