瑞丸、銀河皇帝と暗黒卿に謁見する。

先週の東京コミコンにて、パルパティーン皇帝役のイアン・マグダーミドと、若きアナキン・スカイウォーカー役ヘイデン・クリステンセンと写真を撮った。『クローンの攻撃』公開から20周年にあたる今年、このふたりが揃って来日し、ダブルショット撮影の機会があるというのはまたとないチャンスなので、普段あまりこういう撮影やサイン会に参加しないぼくも、さすがにチケットを取ってしまったというわけ。
すでにEP2が自分にとって重要な作品であることは散々書いているので、このふたりが自分にとってSWのアイコンと言っても過言ではないことはわかってもらえるだろう。最高議長とジェダイの英雄ととらえることもできるが、やはりここは皇帝と暗黒卿と表現したいところだ。このふたりの関係こそSWの歴史を支えている。
ちゃんと時間通りに待機列に並ぶことができるのかどうかから始まり、撮り直しなど無い中で写りのいい表情ができるのか、顔色は、体調は大丈夫なのか、ほんの一言でもなにか伝えられるのか、伝えるとしたらなにをどう言うのか、というような心配をしながら小一時間待った末、いよいよもう撮影ブースまであと一歩というところ、最後にちょっとでもマシに見えるよう身支度をしなさいと言わんばかりに姿見が置いてあり、その前に立つ。しかしもはや自分の見た目などどうでもよく感じられた。すぐ数メートル先にふたりはいるのだ。ブースに入ったあとも何組か並んでいたが、そんな時間はもうあっという間に終わった。すぐに自分の番となった。
この写真で言えば、向かって左側から入って、右側から抜けていくという流れになるので、まず最初にイアン・マグダーミドと出会うことになる。銀河いち邪悪な男の素顔は温厚そのもので、すぐにその手がぼくに向かって差し出された。温かい手であった。ああそうだ、なにか言わないといけない。なんとなくその場の流れは常に動き続けていて、うかうかしていればすぐに写真が撮られて終わってしまいそうだったが、ぼくの中では時間が止まったかのような感じだった。「My favorite is Episode 3!」と、頭に浮かんだいちばん簡単な言葉が口から出た。シェイクスピア俳優に向かって言うにはかなりお粗末な英語である。favoriteにisが続いて大丈夫なのか?favorite episode is 〜と続くべきなのではないか、など今なら思うのだが、しかしマグダーミドはにこにこ笑って「Thank you」と言ってくれた。最初にかけてくれた「Hello」もそうだったが、声の響きがまさにパルパティーンのあの感じである。クラっとする。『スリーピー・ホロウ』での役も好きだと言えればよかった。
振り返ると、今度はヘイデン・クリステンセンがいる。同じように挨拶とともに手を差し出してくれた。ほぼ無意識にしっかり握る。先ほどのカタコト英語の、「3」を「2」に置き換えて伝える。別にEP3のままでもよかった。ふたりが同様に活躍するのだから。けれど、ヘイデンにはEP2が好きだと伝えなければならないと思った。ぼくが初めて劇場で観て夢中になった作品で、彼が初めてアナキンを演じた作品なのだから。ぼくの言葉にヘイデンは「Of course I like it too」というようなことを言ってくれた(確かそんなニュアンスだった)。もちろん、彼もEP2が好きだろう。EP2とEP3、どちらもぼくにとって重要な作品だ。ふたりにとってもそうであることを願うばかりである。
それらはほんの短い、一瞬のような出来事で、ふたりにとってぼくは三日間の日程の中で会った大勢の中のひとりに過ぎなかっただろうけれど、しかしあの瞬間だけは、ぼくに向いてくれていたはずである。価値のある、幸福な時間だった。写真は記念として残るが、重要なのはあの時間だろうと思う。
ふたりに挟まれながらレンズを見たとき、あれだけどんな顔をすればいいのかと考えていたわりには、ほぼ無意識に、直前にふたりと言葉を交わしたときのままの顔でいた。いちばん自然な笑みになっているだろうと、直感でわかっていた。果たして、実際そうなっていた。妻も、一緒に行った友人も、いい顔だと言ってくれた。娘さえ「お父さん、こんなに笑った顔になるんだねえ」と言っていた。こんなに笑うこともあるのだ。もっと言えば、目は少し潤んでさえいた。妻はこの顔を、子どものようだと言っていたが、確かにあの時間、ぼくは20年前初めてEP2を観た10歳児に戻っていたのかもしれない。戻るもなにも、いつもそうだろう。
今こうして写真を見返していても、なんだか不思議な気分である。自分と彼らが一緒に写っているのが信じられない。信じられないわりには、そのときの記憶がまだまだ如実に浮かんでくるので、思い出して笑みが浮かんだりする。最高の思い出のひとつとなった。