瑞丸、クルマを買う

 夏にふと思い立って車を買った。先月の納車から丸1ヶ月が経った。1/64ではなく1/1スケールである。
 前々からいずれは自由に移動したい、すべき、と思っていたのだが、いろいろな理由が重なってそのタイミングが来たようだ。微妙に遠い上に交通の便が悪いぼくの地元にも気軽に行けるし、目に見えて老いてきた犬をぽつねんと留守番させることもなく、一緒に出かけられる。子どもと犬がいると、鉄道にだけ頼るのはなかなか厳しいものを感じる。そういうわけで、真夏の午後にブルーシールのアイスクリームが載った飲み物を手にしながら、目の前の細い路地を赤いフィアット500がすうっと通り過ぎていくのを見て、いい加減に車を買おうという話が夫婦の間にのぼったのだった。
 もちろんそれは、ぼくが免許を取る前から、子どもの頃からフィアット500に憧れがあったからなのだが、現実問題として子どもと犬のことを考えるとツードアのコンパクトカーでは手狭である。そこで妥協案としてあがったのは形のよく似たルノー・トゥインゴである。元々これは友達がいずれ乗りたい車として教えてくれたものなのだが、形と色さえ趣味に合えばぼくとしては不満はないので、すぐこれに決めた。件の友達より先に買うことになり、さぞ苛立たせたことだろうと思うが、その彼も最近購入を決めたらしいので、それもまたひとつのタイミングになったと思えばまあいいだろう、と勝手に思っている。
 さて免許を取ってから4年が経っていたわけで、さすがに不安が大きくかなり緊張したのだが、ペーパー教習を受けてみるとこれがあっさり感覚が戻ってきて特に難しく感じることはなかった。それが9月の中旬頃のことなのだが、なんだか遠い昔のようである。もうちょっと年月が経っていたらあれほど早く感覚が取り戻せたかどうかわからないし、一度も運転しないまま二度も更新するのはもったいなかったので、そこもまたちょうどいい時期だったかもしれない。
 それから1ヶ月、ちょっとした用事にもできるだけ乗るようにしていたら、すっかり最初のような重い不安はなくなった。全然不安がなく緊張もしないわけではないが、むしろそれくらいは残っていた方が正しいのだろう。とても調子に乗るような気にはなれないし、初めて行く道はやはり肩に力が入って耳あたりまで上がってしまう。大型車とすれ違うときに意味もなく肩をすぼめずにはいられないし。
 とは言え先週末、初めて家から車でディズニーランドに行ったのは、なかなかよく走ったと思う。田舎の出のひとは皆そうだと思うのだが、両親がともに車を運転する環境で育つと、どうしても大人とは車を運転するものという頭になる。今日日いろいろな大人がいるだろうが、個人的にはこれでようやく大人になれたような気がする。と同時に、帰り道に後部座席で娘が寝息を立てているのを見て、チャーリー・ブラウンの言う「後部座席の安心感」というやつを、ぼくは二度と味わうことがないのだと気づいたりもするのだった。