Andor S1 (2022)

SWドラマシリーズ『キャシアン・アンドー』、正直始まる前は「スピンオフ(『ローグワン』)のスピンオフじゃん……」などと思っていたが、これがとても良い。ディテールの細かさやしっかりした生活感は『マンダロリアン』以上。登場人物たちが交わす会話は情報量が高く、ハードSFものの小説を読んでいるように感じる。そう、個人的にはこの小説を読んでいる感覚がSWスピンオフには重要だ。なぜならこれほどまでに贅沢に映像作品が量産される以前はその世界観を活字で読んでいたのだから。だから、『アンドー』はとてもSWスピンオフらしい仕上がりになっている。会話のあちこちに散りばめられた固有名詞ひとつひとつも楽しい。固有名詞をただ羅列しているだけではなく、ちゃんと会話として成立し、言葉に重みが加わっている。
ただのコソ泥に過ぎなかったキャシアン・アンドーが、まだ反乱同盟軍としてまとまいない小規模なゲリラ活動のネットワークに引き込まれていく物語となるのだが、敵役の帝国軍はもちろんその中心となる帝国保安局の内幕がこれまでのSWとは比にならないほど細かく描写されるのも楽しい。あえて悪役ではなく敵役と表現したのはそのためだ。なんの邪念もなく普通に働いているひとも多く登場し、英雄と悪党ばかりが登場してきたSWとしては、その描写にかなり新鮮味を覚える。絵に描いたように冷酷で身勝手な人物もそれなりに登場するが、やはりその周囲の人間、同僚、家族、会話がいちいち丁寧に描かれるため、単純な悪として受け取るのには抵抗がある。言うなればいろいろな意味で生き生きとした銀河帝国と言ったところだ。
帝国保安局、通称ISBは映画一作目から登場している。デススターの会議室にターキン総督はじめ灰緑色の制服を着た高官たちが並ぶ中、ひとりだけ真っ白な制服を着てカイゼル髭をたくわえた人物がいる。初めて映像内にその姿を見たときから印象深かったが、このひとの名前がウルフ・ユラーレンと言い、その所属が帝国保安局であり、その真の任務はデススターを我がものにしているターキン総督を密かに監視することだったというのをあとから知り、後付け設定だとしてもかなりキャラクターに魅力を覚えたものである。ISBは現実的に考えれば嫌な仕事をするおぞましい秘密警察に過ぎないかもしれないが、その存在を知ったとき映像で描かれている帝国軍にそれ以外の奥行きを感じた。おそらく一番汚れ仕事をしていそうなのに真っ白な制服を着ているというアイロニーも効いている。