「笑ゥせぇるすまん」

YouTubeの公式チャンネルでアニメ「笑ゥせぇるすまん」全124話イッキ見動画なるもの(通しで23時間くらい)が上がっていて、期限もあったのでできるだけ流しっぱなしにして全部観たのだが、これがとてもおもしろく、勢いで文庫版のコミックも全巻買ってしまった。藤子不二雄と言えば専らF派だったのだが、こんなにおもしろいとは。作者存命中にいくらでもその作品に触れる機会があったろうに、こういう追悼特集的なものをきっかけにその世界を知るというのは、若干後ろめたさのようなものを感じないではないのだが、しかし追悼特集もまた立派な入り口だろう。というかむしろそういうためにあるのではないのか。

一応断っておくがもちろんオリジナルのアニメ版であって、数年前の新しいやつではない。新版はNetflixにあったので、オリジナル版を見終えた勢いで試しに最初の方だけ観てみたのだが、新しいアニメだとやはり不気味さに欠けた(不気味さだけの問題ではなかったが……)。オリジナル版は平成初期の時代を感じるところも手伝って、怖さが独特なんだよな。原作タッチの再現度も高く、アニメオリジナルのエピソードもそれとわからないほどだった。ちょくちょく写真をコラージュするところもアバンギャルドだし(それゆえに時代をストレートに感じるのだが)、実際の東京の風景も出てくるので、景色が現在とで変わっているところなどは史料的だったりもしておもしろい。喪黒福造という怪人物の存在感を引き立てる画作りも印象的で、真っ赤な夕焼け空をバックに黒いシルエットが浮かんでいるシーンや、「新宿の目」という、それ単体で十分に怪獣的なモニュメントを背景に「商談」が交わされるシーンなどが気に入っている。

でも一番気に入っているのはやはり喪黒福造というキャラクター。得体の知れない怪しげな人物でありながらも、ところどころで人間味を見せるところがいい。お酒の大好きな客にはしご酒に付き合わされたときには、途中で顔を真っ赤にして目を回して倒れたり、捨てられそうになっていた不味い愛妻弁当を横取りして口にしたときは顔を紫色にして苦しんだり、チンピラに絡まれて形成不利と見るや走って逃げ出したりするなど、ちゃんと生きた人間であることがわかり、一気に親近感がわいた。彼も別に全知全能の無敵ではないのだ。ただ、人の心のスキマへの感度がめちゃくちゃに良く、悪意のない悪戯と善意からの嫌がらせが大好きなのである(最悪じゃん)。

丸っこいフォルムもいい。ガニ股でテクテク歩いてくる感じもかわいい。帽子を脱いだ丸い頭もいいのだが、後ろから後頭部が映るところがやたらとかわいく感じる。これはもう黒いドラえもんである。