傭兵マーレ・ムアの半生は謎に包まれている。ある者は彼を連邦軍の脱走兵だと言うし、その黄金の装甲服から惑星ヴァネソアの王族の生き残りだと言う者もいた。しかし、実際には惑星キアフォリア出身の孤児というのが彼のバックグラウンドである。
連邦軍艦隊が帝国軍残党の潜伏地であるという理由から、軌道爆撃によりキアフォリアの地表を焼き尽くしたとき、マーレ・ムアはまだ10歳にも満たなかった。しかし、キアフォリアの悲劇のあとではそうした境遇の子どもたちは少なくなく、その多くが破壊の跡を訪れた海賊や密輸組織によって連れ出され、広い銀河に散らばっていった。ムアもある海賊に拾われたことで滅んだ故郷を脱出し、自身の人生を手に入れる足がかりを得たのである。
海賊団で少年時代の大部分を送ったムアは、その覚えの早さや器量の良さ、優れた判断力により十代でありながらすぐに船の中で大きな存在感を持つようになっていた。連邦を憎み、キアフォリアの悲劇に胸を痛めていた船長はムアを半ばひいきしていたが、そのことがやがて他の船員の嫉妬と怒りを買うことになる。数人の船員が結託し、貴重な積荷を宇宙空間に放り出し、その罪をムアになすりつけたのである。船内の掟に従い、船長は渋々ながらムアに処分を下し、責任を果たさなければならなかった。ムアは無実を訴え、真犯人が誰かおおよそ見当がついていたが、船長の立場を優先して潔く船を降り、不毛な惑星ゾユに置き去りにされるという罰を受け入れた。船長は金貨を一枚と自害用の銃を一丁、ムアに渡したが、結局はこの武器が傭兵マーレ・ムアを象徴するような銃となるのだった。
彼にまつわる噂のひとつは事実をかすってもいた。ゾユの荒れ果てた土地でしぶとく命を繋ぎとめていたムアの前に、ひとりの男が現れ、惑星からの脱出に手を貸してほしいと持ちかけるが、彼こそはユライア・ヴァネソア、革命によって滅んだヴァネソア王族の生き残りのひとりだったのだ。ヴァネソアから逃げ延びてこの星に隠れこむも、運び屋の裏切りに遭って置き去りにされてしまったという。彼の調べでは荒野の先にみすぼらしいながらも一応は外からの宇宙船が出入りする発着場があるという。出入りしているのは主にゾユを隠れ家とするギャングたちの使う船だが、そのひとつを盗み出して逃げ出そうというのだ。ムアは自称王族とお付きのロボットを胡散臭く思いながらも、星を脱出するわずかな可能性があるならと協力することにした。
しかし、結局犯罪者たちの船を盗む必要などなかった。実は海賊の船長がムアに密かに渡した金貨にはおよそどの惑星でも通用する大きな普遍的価値があったのだ。海賊たちはこの金貨を宇宙港でちらつかせるだけで、積荷の説明や船の登録証の提示を省略させることができ、暗黒街では非常に便利なパスだった。
ムアはこの金貨を気前よくギャングたちに与え、船をチャーターしたのだった。裏社会の住人はこの金貨に絶大な尊敬を抱いており、その使用者を襲って奪うようなことはタブー視されていたので、彼らはムアと元王族を丁重にもてなし、どこへでも希望の星に連れて行くと請け負った。こうしてムアは再び自由を手にし、ユライアは安全な世界へと逃れることができたのだった。王族の秘密の隠れ家にたどり着いたユライアは、ムアに謝礼として貴重な財宝の一部を与え、また王族が戦闘時に使っていた黄金の装甲服も渡した。彼はムアの戦士としての素質を見抜いており、ここで受け取ったものを元手に、マーレ・ムアは傭兵としての生活を始めることになった。
ムアが古巣の海賊団を見つけるまでには大して時間はかからなかった。彼は素性を隠して活動しながら海賊団を追いかけていたが、とうとう懐かしい船を見つけたとき、彼は自分を陥れた船員たちがすでに戦いで命を落としていたことを知った。ムアは復讐の無意味さを噛み締めながら、恩人である船長に貴重な金貨はギャングに渡してしまったことを詫び、代わりにヴァネソアの財宝のひとつを渡して義理を果たした。船長はムアに船に戻るよう誘うが、すでにムアは海賊見習いの少年ではなくなっていた。彼は再び船長に別れを告げ、傭兵としての人生を歩み続けるのだった。