Evangelion:3.0 You Can (Not) Redo.(2012)

 『破』も当然おもしろいのだが、TVシリーズ終盤を土台にしているせいもあって若干モラトリアム的な部分が大きい(もちろん終盤にかけて事態は変わっていき、そのメリハリは完璧なのだが)。楽しかった時間は終わってしまうからこそかけがえのないものとなる。というわけでようやくTV版の流れから完全に分岐して新しい世界に、まさにわけのわからないまま連れていかれる『Q』がとても好きである。説明不足であるという評価も聞くが、そこはウラシマ状態のシンジと同じ目線に立って、一体なにが起こったのだろうかと、断片的な情報を繋いで自分で考えるところがおもしろいのである。
『Q』で上手だなと思うのは「声は同じだが姿が違う」というちょっとしたギミックだ。たとえば冒頭の宇宙空間での作戦では、よく聞き慣れた葛城ミサトや青葉シゲル、日向マコトの声が通信で聞こえてくる。声とキャラクターの顔は完全に結びついているので、当然いつものミサトやシゲル、マコトの顔が思い浮かび、ああこれはいつものネルフの作戦なんだと思い込んでしまう。おまけにそのすぐあと、赤いプラグスーツのエヴァ・パイロットが思わせぶりに被っていたヘルメットを脱ぎ捨てると、なんのことはない、当たり前のように「ほぼ」いつものアスカの顔が現れ、観ている側は安心する。眼帯こそつけているが、『破』での顛末を考えれば多少負傷の痕があってもなんらおかしくはない。さらに『破』から登場したマリも、やはり前作から変わらない姿を見せるので、これは『破』からそのまま続いた、せいぜい数ヶ月後程度のお話だろうと、いつの間にかなんの疑問も持たずに観てしまうわけだ。
しかし、その後シンジとともにそれまで「サウンドオンリー」だったクルーたちの姿を見せられて衝撃を受ける。青葉シゲルと日向マコトの見た目が違う!ミサトもリツコも別キャラと言っていいくらいに違うヴィジュアルだ。どこか別バージョン的な雰囲気に、まさかパラレルワールドに入ったのかとあれこれ考えをめぐらせていると、ようやくそこは前作から14年後の世界であることが明かされる。
最初にお馴染みの声が聞こえる。でも声だけだとちょっと怪しい。エヴァ・パイロットはヘルメットで顔を隠している。ちょっと怪しい。赤いプラグスーツだがもしかして違う人なのか?ヘルメットを脱ぐ、やはりアスカである。安心。と思っていたらミサトたちががらっと違う。そういったフェイントを重ねた上でのメリハリみたいなものがすごくて、一気に引き込まれた。
この仕掛けはさらに続く。シンジが現在の状況をこれから説明されようとしているところに(このタイミングがまた意地悪でもある)、単眼のエヴァが襲来する。零号機によく似た姿で、シンジもこれを零号機だと思い込み、綾波レイの声まで聞こえてくる。サウンドオンリーに一度騙されているのにも関わらず、シンジが「綾波!」と早合点して応答したものだからやっぱりここでも綾波が来たのだととぼくみたいな単純なやつは思い込んでしまう。そして、連れていかれたネルフ本部で姿を見せたのは、お馴染みの白いプラグスーツとは真逆の黒いものを着た、怪しさ満載の綾波である。声も姿も同じだが、実はシンジの知っているのとは別個体であったことがあとでわかり、このことがひとつの起点になる。姿は変わっていないが14年の時を経ていたアスカとはまた違うパターンを見せてくるのがこのアヤナミである。
声は同じだが姿が違う、声も姿も同じだが背景や正体は完全に変わっている。こういった仕掛けはアニメならではのものだろう。アニメ特有の性質をうまくストーリーと合体させていて、このギミックが『Q』をとてもおもしろくしていると思う。