「三体 II 黒暗森林」

型破りな中国のSF小説「三体」シリーズの第二巻「黒暗森林」のいち場面より。第一巻の「三体」もインパクトがあったけれど、それがまだまだ序章に過ぎなかったことを思い知らされる内容。前作がことが始まるまでを丹念に描いた序章だっただけに、今作は最初からことが始まっていてノンストップ。

文革で学者だった父親をリンチで殺されてしまったひとりの女性がのちに秘密のアンテナ施設に配属され、密かに外宇宙文明にコンタクトをとり、彼らに地球の存在を知らせ、招いてしまうことから全てが始まるという経緯やバックグラウンドを描いたのが第一巻。三つの太陽に囲まれその周回が不安定な過酷な環境(ずっと極寒の夜だったりずっと灼熱の昼間だったりで地球のように安定して昼夜を過ごせる時期が不定期に訪れる)で何度も文明再建を繰り返してきた三体文明は、安住の地を求めていたが、父親の運命をはじめ人類の愚かさに絶望していた彼女は三体文明の侵略を手引きすることを選び、やがて三体側に協力する地球側組織のリーダーとなる。第一巻では彼女が率いる地球三体協会を、巻き込まれ型の語り部たる科学者や敏腕刑事をはじめ当局側が追い詰めていくのが山場で、三体文明の艦隊がすでに故郷を出発し、文明の未来がかかった遠征の旅を始めたことが明らかになる。彼らが地球のある太陽系に到着するまで400年だという。

そして、400年後の侵略に備えて必死に準備を進めるというのが第二巻「黒暗森林」の物語。400年もあるのだからまだまだ時間はあるのだが、地球はまだ宇宙空間での戦闘はおろか宇宙船の技術もほとんど進んでいない。その上三体側から送り込まれてきた原子以下のサイズのコンピュータ的存在によって地球上のあらゆる動きが監視されており、一定の技術の発展が封じ込まれてしまっている。侵略への対策を講じようとしても、その内容は三体側に筒抜けの状態。音声も文書も監視されている。つまりふたり以上の人間がそれについて話し合うことができないのだ。しかし、地球人にもほぼ唯一といっていい優位性がある。それが思考である。三体人のコミュニケーションにおいては思考が全てオープンで、隠し事や嘘といった概念がない。監視に送り込まれてきた原子以下のスパイにも、人間の思考までは読み取れない。というわけで、地球では三体に対抗する作戦を、ひたすら自分の頭の中だけで考案する人間を4人選出し、今回の主人公はそのうちのひとりとなる。

選ばれた4人は全てが自由というほどではないにせよ、地球上のかなりの部分を自由に動かせる権限を持ち、その意図について説明する義務がない。ほかの人間にはその真意がわからず、それぞれが考える作戦の全貌を知るのは本人だけで、そこがこの計画の狙いとなる。400年後の侵略に備えるため、途中で冷凍睡眠に入って時を越えるのも自由。3人がそれぞれどんな作戦を進め、またそれがどのように三体側(に協力する人間)に暴かれておじゃんになるかが描かれる中、しかし主人公は……というのがおおまかな内容である。

こんなあらすじでそのすごさが伝わるとは全然思えないが、とにかく話のスケールや拡がりかたに圧倒される。そして大きな話が始まるまでに、その経緯や準備、伏線を丹念に積み上げていくところが丁寧で、だからこそあとに来る拡張する展開がおもしろい。上の絵は個人的な大詰め、読んでいて感動さえ覚えたシーン。読んでいなければなにがなんだかわからないと思うが、これを説明するのはちょっともったいない気がするので特に補足しないでおく。気になったら読んでみよう。とんでもないことが起こっているところ、はっきり言って膨大な数の破壊と死の場面である。しかし、とてつもなく興奮してしまう。その感覚はたとえるならゴジラが放射熱線を吐き出すシーン、あれが近いと思う。