「SPUR」2020年10月号(集英社)
イラスト映画レビュー「銀幕リポート」第55回
『ブックスマート』
オリヴィア・ワイルド監督デビュー作。真面目に高校生活をおくり、進路も希望通りとなった努力家の親友ふたりは、卒業式前日になってそれまで見下してきた一見ボンクラなクラスメイトたちも皆立派な進路が決まっていると知ってショック。遊んでばかりの連中がどうして?遊びも勉強も両立させていた彼らに対し持ち前の負けず嫌いを発揮させたふたりは、卒業前夜パーティで思う存分ハメを外し、自分たちだって遊び上手なのだと知らしめるために一夜の冒険に繰り出す。
主人公たちの痛々しさはおもしろくもあり共感するところも(自分は別に優秀というわけではなかったが、やはり遊び足らないのではないかという不安はいつもあった)。なにより彼女たちが一夜を通してクラスメイトたちの知らなかった一面を垣間見る展開がいい。そこにはフィクションの学園ものにありがちなわかりやすい対立やヒエラルキーなんてものはなく、本当は相手のことをあまり知らないだけなのではないか、その気になればわりと仲良くなれるのではないか、という希望も感じられる。いつの間にか物語はふたりの冒険だけではなく、クラスメイトたちそれぞれの事情がクロスする群像劇の色を帯ていって、翌日の卒業式本番には、昨日とは少し違った顔に見える皆が集まる。こういう作品を実際に高校時代に見られたら、それは本当に幸福な体験になるだろうなと思った。