「SPUR」2020年9月号

「SPUR」2020年9月号(集英社)
イラスト映画レビュー「銀幕リポート」第54回
『ハニーボーイ』

 シャイア・ラブーフが主演・脚本を務めた『ハニーボーイ』。シャイアがリハビリ施設でセラピーの一環として書いた自伝的脚本で、「リハビリ施設で自身のトラウマたる父親との記憶と向き合う若きスター俳優の苦悩」そのものを描いているのだが、その父親というのをシャイアは自分で演じている。つまり、この映画をつくること自体が彼にとっては回復への道筋であって、父親を演じることで自身の過去と向き合っているのだ。画面に映し出される彼の演技ひとつひとつにその闘いがあったわけで、だからなのか、とても骨太な作品になっている。

 ゼロ年代中期にティーンだった身としては、シャイア・ラブーフなんてスターだったわけだけれど、こんな親父がいて、子役のギャラで養っていたというのだからびっくりである。禿げ上がった頭に、出っ張ったお腹(これは入れ物をしている)で変わり果てた姿も強烈だが、やや垂れ下がったその眼差しは紛れもなくシャイア・ラブーフ。