ブラシが硬かった

 多忙であることを強調したくはないのだが、この春先から連休をまたいで5月中までずっと息つく暇もないような状況だった(平日がだいたい全部締め切りというのが数週間続いていたわけだけれど、それは複数の締め切りが同じ日に重なるのを避けて分散させた結果でもあった。しかし、結局それでも同じ日に何件か重なることになり、全部が全部同じ点数かつ密度、というわけではないにせよ(ラフの期限や完成データの納品もごっちゃになっている)大変だった。別にまだ終わったわけではないが、ようやく日程が単純になりはじめたので、こうして書いている。ちょっとでも放っておくとすっかり書かなくなってしまうので、無理にでも書いておく必要がある。

 どうも前より描くのが遅くなっているような気がして、それがだんだん気分にも影響して、特に点数の多い仕事が重なっていることもあって実際よりも一層ハードルを高く感じるようになっていたのだが、原因は至って単純だった。主に使っているフォトショップのブラシの筆圧設定が非常に硬め(筆圧をある程度かけないと意図した太さにならない)に設定されていたこと、それからペンタブのペン先を弾力のあるもの(スプリングの入っているやつ)にしていたこと、この2点である。デジタルアナログ両方の要素によってしんどくなっていたらしい。とにかく描画に時間がかかり、なにより手が辛い。もちろん仕事が多いということで気が重くなっているのもあると思うが、とにかく作業面ではこれが負担だったようで、思い切って筆圧設定を軽くして、ペン先も普通のものに変えたみたら、すらすらつるつる描けるようになった。元はと言えばこのすらすらつるつるが軽すぎて嫌で、紙にペンで描くのと同じような抵抗が生じるようにして、できるだけアナログな雰囲気を出そうと考えていたのだが、こんなに負担がかかり、そしてそれほど雰囲気に違いが出ているようにも見えないのであれば、もうそういうこだわりはやめてしまっていいかもしれない。デジタルで描いているのにアナログに見えるように、なんていうのがそもそも小賢しく虫のいい話だったのだろう。デジタルで作っているならデジタルに見えていいのではないか。確かにアナログの雰囲気がありながらデジタルの手軽さで自由に編集ができるというのは便利だけれど、まず全然手軽にできていないし、アナログの雰囲気を再現することがそこまで重要だろうかとも思えてくる。せっかくデジタルで描いているのだから、もっと新しいものを目指してもいいのではないか。

 確かにデジタル環境でアナログのうような温かみと味わいのあるものを描くひとはいるが、そういったひとの作品は単なるアナログの再現にとどまっておらず、両方のよさを兼ね備えた全く別の新しいものとしての魅力を持っていると思う。なにで描いたのか一見わからない不思議さというようなものがある。対してぼくはと言えば、実際にインクとペンで描いたように見せたい、ということを意識しすぎていた。そして、その再現にこだわることが難しいのは言うまでもない。せっかく自由度の高いツールを持っているのだから、もう少し広く考えてみてもいいはずだ。タッチや絵柄というものは、必要に応じて、必要に迫られて形になっていくものなので、こうして仕事を進めるのに最適なやり方を模索していくことで、自然と自分のスタイルが出来上がっていくのかもしれない。