「SPUR」2020年5月号

「SPUR」2020年5月号(集英社)
イラスト映画レビュー「銀幕リポート」第50回
『フェアウェル』

 いよいよ劇場で映画を観るどころの状況ではなくなったので、このような紹介が大変空虚なところではあるけれど、まあこういう映画があるのでいずれ機会があれば、というような紹介として受け取っていただければと思います。

 オークワフィナ扮する中国生まれのニューヨーカーが、母国のおばあちゃんがガンになったと聞いてすっ飛んでいく。ところが、本人は自分が余命幾ばくもないことをちっとも知らない。親族一同、本人に伝えないことにしたのだ。中国ではこう言うらしい。「ガンになったひとはガンの恐怖で死ぬ」と。そういうわけで慣例にしたがって本人に真実を隠し、最後までみんなで嘘をつき通すことにするのだが、おばあちゃんが大好きな主人公は葛藤するのだった……。

 いつも陽気なオークワフィナが結構真剣な役柄で驚いた。口を大きく開けて早口でまくしたてているイメージが強かったけれど、こんな表情をするんだ、と純粋に心を打たれる。「あんたは顔に出やすいからおばあちゃんに会っちゃだめ」と両親からひとりだけ中国行きを却下されるも、言いつけを破ってやって来てしまい、案の定おばあちゃんの顔を見た途端「顔に出」てしまうシーンが、なんとも可笑しい。あの可笑しさはもちろんオークワフィナだから出るのだろう。しんみりとユーモアのバランスの取れた、優しい嘘のお話です。中国でも早く諸々回復しますように。