SW初のドラマシリーズは西部劇へのリスペクト満載で幕を開け、銀河の覇権を争う戦争とは無縁の小さな世界を描きながらも、ひとつひとつのディテールが世界観を広げていく。視界はごく狭いものなのに、最小限の要素でその背景が想像できるところがおもしろい。
なんの説明もなく連発される謎の固有名詞はすでに出来上がっている世界観にいきなり連れて行かれるような感覚を起こさせるが、これはSW特有の雰囲気のひとつだ。報酬の支払いをめぐるちょっとした会話で銀河情勢の変化がわかるところもいいが、特に印象的なのは宇宙船に備え付けられた真空チューブなる機能。要するにトイレなのだが、トイレと言わないところもSWらしいし、SWにトイレが出てきたのも初めてだ。記念すべき瞬間と言えよう。
主人公は戦闘民族マンダロリアンの生き残り、残党のひとりであり、戦士としての性質を活かして賞金稼ぎとして銀河の無法地帯を生き抜いている。帝国が敗北して同盟軍により樹立された新共和国の統治が始まって間もない時期、中心部コア・ワールドはともかく、外縁部では混乱が続いており、賞金稼ぎたちが忙しく働く一方で帝国の残党も暗躍していた。主人公はそんな帝国残党からとある標的の確保を、莫大な報酬と引き換えに依頼される。報酬はかつてマンダロリアンの鎧の材料となっていた貴重な金属ベスカーであり、これを集めることは同胞の復興にも繋がるのだった。
この依頼が冒険の始まりであり、問題の標的というのは今ではすっかりお馴染みとなった「ヨーダと同族の子ども」。「ベビー・ヨーダ」の愛称でも呼ばれるが、現時点でのキャラクター名は「ザ・チャイルド」。主人公が通称「ザ・マンダロリアン」(略して「マンドー」)なので、名無しのふたりによる子連れ狼的冒険の始まりである。この子どもは単にヨーダの種族の幼体(と言っても50歳なのだが)かもしれないし、ヨーダ自身のクローンである可能性も囁かれている。主人公が依頼人である帝国残党の人物(ヴェルナー・ヘルツォークが演じるこの役名も単に「クライアント」としか呼び名がない)と打ち合わせをする際、部屋に入ってくるドクター・パーシングなる人物の服の肩に、『クローンの攻撃』の惑星カミーノで見られたクローニング・プロジェクトの紋章に似たものが描かれているのが根拠のひとつらしい。
ザ・チャイルドを確保しに向かう道中、マンドーはアグノートのクイール、暗殺ドロイドのIG-11と出会うのだが、アグノートもIGドロイドも『帝国の逆襲』に登場したモチーフである。ボバ・フェットと同じヘルメットを被った新しいキャラクターを演出するにあたり、まずはかつてボバと一緒に画面に登場した要素を持ってきて説得力というか、イメージを支えようというわけだ。そもそも冒頭からカーボン冷凍が登場しており、ボバ・フェットのイメージを借りた掴みとなっている。ヨーダにしてもEP5で登場したキャラクターだし、この第1話はとにかくEP5からの引用で出来ている。しかし、それでいながら単なる焼き直しにはなっていない。ボバ・フェットとヨーダはEP5の二大キャラだが、直接の接点がない両者(のようなふたり)を出会わせたこと自体が新鮮で、お馴染みのモチーフを使って新しい物語を予感させている。
ボバへのオマージュと言えば、マンドーが持つ先端が二股の槍のようになっているパルス・ライフルも忘れられない。『ホリデー・スペシャル』のアニメパートでボバが持っている武器そのままであり、アニメ同様襲いかかってくる怪物を撃退するのに使った(エフェクトはまるで違うが)。氷を突き破って下の水中から襲いかかってきたセイウチのようなクリーチャーは、『ホリデー・スペシャル』のクリーチャーのスケッチによく似たものが残っているので、これはほとんど実写化と思っていいくらいだ。
ところでマンダロリアンというのはボバ・フェットと同じヘルメットやアーマーに象徴される戦士たちで、かつてジェダイ騎士団に滅ぼされたとされていた。ボバ自身はともかく彼のクローン元にして「父親」であるジャンゴ・フェットは以前の設定ではマンダロリアン戦士の生き残りだったが(正確にはマンダロリアンの紛争により孤児になったところを戦士に育てられた)、アニメシリーズ『クローン・ウォーズ』でマンダロリアン周辺の物語が一新される際にそのあたりの設定も変わり、ひとまずジャンゴはどこかで手に入れた装甲服を着て活動している賞金稼ぎ、ということになったらしい。これはCWの監督にしてこの第1話をはじめ『マンダロリアン』のエピソード監督、製作総指揮も務めるデイヴ・フィローニがジョージ・ルーカスに確認を取っているもので、ルーカスとしてはジャンゴを伝説の戦士たちの生き残りではなく、その戦士たちの名残を着ているならず者にとどめておきたかったのかもしれない。
とは言えジャンゴ自身がマンダロリアンであれば、筋が通る部分もある。ジャンゴの遺伝子をもとに生み出されたクローン・トルーパーたちはのちにジェダイ騎士団を滅ぼすことになるが、これは間接的にマンダロリアンがジェダイに復讐を果たしたという構図になってうまいこと繋がるのだ。ただ、それではマンダロリアンが悪の手先ストームトルーパーへと繋がっていくことにもなるので、戦士たちの名誉のためにも設定を改めたのかもしれない。いずれにせよフィローニが深く関わっているということで、本ドラマシリーズでもマンダロリアン戦士について掘り下げられることだろう。というかこれはシーズン1全話観終わってから書いているのでそうなることはわかっている。というわけで第2話感想に続く……。