「SPUR」2020年4月号

「SPUR」2020年4月号(集英社)
イラスト映画レビュー「銀幕リポート」第49回
『ミッドサマー』

 アリ・アスター監督最新作にして、ブラック・ウィドウの妹分役が控えるフローレンス・ピュー主演。妹が両親と無理心中をしてたった独りとなり失意の底にあったダニーは、彼氏とその友人たちに(不本意ながら)誘われてスウェーデンの小さな村の夏至祭を訪れる。ブロンドと白い衣装、草花が控えめな太陽光に照らされるかわいらしいイメージはなんとなく想像通りだが、少しずつ不穏さが漂ってきて……。
 とにかく容赦のない描写が満載で、観ている間はおっかなかったが後でまた見返したくなってくるような魅力もある作品。はっきり言って意味やメッセージなんてものは考える必要がなく、ただひたすらひとが悲惨な目にあうのを主人公とともに乾いた笑いでもって眺められれば、最高に楽しいだろうと思う。
 夏至祭やスウェーデンのイメージが悪くなるのではないかと薄ら心配になるほどなのだが、しかしそもそもオシャレでかわいらしくてとにかく先進的、みたいなイメージもまた偏見であり、この映画を観て悪いイメージを持つようならそれも偏見である。特定の国や文化を憧れの対象として崇めるという態度は、実は同時にその真逆の思考を有することにもなるので気をつけなければいけない。ちなみに本作の登場人物のひとりは例によってスウェーデンにフリーセックスの奔放な国だというイメージを持ち、さぞ楽しい思いができるだろうとアホな期待を抱いていたが、そいつが一番悲惨というか、みっともない「形」にされてしまう。なんにせよ、先入観は命取りだ。