「SPUR」2020年3月号(集英社)
イラスト映画レビュー「銀幕リポート」第48回
『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』
施設を逃げ出したダウン症の青年ザックと、失意のカニ漁師タイラーがいかだで川を旅する『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』。「ハックルベリー・フィンの冒険」を思わせる旅がかわいらしく、途中からザックの身を案じて追ってきた介護士エレノアも加わって、孤独だった3人が温かい家族のような関係を結んでいくのもいい。ジョージア州サバンナ郊外の自然を背景に仕事も時間も忘れた穏やかな冒険が続くが、自分の収穫を横取りしていたタイラーを憎む漁師仲間による追跡が物語を引き締める。ザックを特別扱いせずひとりの人間として対等に扱うタイラーに扮するのはシャイア・ラブーフ。ひげもじゃも手伝ってなんだかしばらく見ない間にすごく渋く、深みが出ている。またいろいろ出たらいいな。