『最後のジェダイ』は赤い



 『ジェダイの帰還』におけるジョージ・ルーカスのコメンタリーで、帝国に色はないが、皇帝の周囲だけ「赤く」することで支配者の強大さを強調したという話が印象的。曰く赤は力を象徴しているとか。

 『最後のジェダイ』の基調が赤色なのはポスターやトレーラー、公開されている画像からして言うまでもないだろう。とにかく赤い。前作『フォースの覚醒』におけるファースト・オーダーはかつての銀河帝国よりも赤を強調させており、白い装甲の兵士たちや黒い制服の将校たちの中で、旗や肩当て、階級章といったところに赤が使われ、ファシズム的色彩をより強めていた。銀河帝国にあったようなくすんだ中間色は一切排され、白、黒、赤というはっきりした三色で統一されている。ファースト・オーダーの性質上、この三色は帝政ドイツやナチスを連想させたりもするだろうけれど、同時にぼくはティーンの頃に好きだった「エミリー・ザ・ストレンジ」のコミックの色調を思い出した。なのでゴス的色彩とも言うことができる。カイロ・レンがまずゴスだし。

 4コマのうち3コマが悪の組織ファースト・オーダーのシーンである。恐らく最高指導者スノークの身辺にも、かつての銀河皇帝と同様赤い衛兵がいるのではないかと考えられていたが、やっぱりいた。赤いひとが。赤いひとが実際に戦うところが見られるのはうれしい。思えば12年前の『シスの復讐』でも赤い人の戦う姿に期待したものだけれど、武器を構えるか構えないかという一瞬のうちにヨーダに倒されてしまった。後ろの壁に頭をぶつけてダウンするというあっけなさで、14歳のぼくは落胆したものである。そう考えれば新登場する「プレトリアン・ガード」は12年越しの願いを叶えてくれるというわけだ。まあ姿はだいぶ違うが、赤いひとには変わりない。

 スノークの赤い衛兵については以前自分なりに想像図を描いたこともあったので、答え合わせではないけれど、その姿を見比べてみましょう(→該当記事)。

 残りの1コマも、やはり赤を強調させたシーンではあるのだけれど、これはファースト・オーダーではなく、赤い尾を引きながら戦いに挑むレジスタンスの乗り物である。これらの目前にはファースト・オーダーの歩行兵器がずしんずしんと迫ってきているわけだけれど、要するにオーダーに立ち向かう側も赤を帯びているという演出と見ることができる。これほどまでに悪の色として強調されてきた赤色に、主人公たちも染まっているということだろうか。

 ここで本作のタイトルをもう一度見てみよう。
 『最後のジェダイ』。
 これまで三部作の中間に位置するエピソードのタイトルは、ダークサイド側にかかったものであり、物語もダークサイド側が勢いを増すというものだった。EP5『帝国の逆襲』に、EP2『クローンの攻撃』。クローンは最初悪者として登場するわけではないし、なんならそのクローンの攻撃とやらでひとまず主人公たちは救われるわけだけれど、広い目で見ればこれも悪の側のアクションと言えるだろう。クローン軍の力を借りたことで、戦争が始まり、共和国は崩壊への道を辿ることになる。そうしてジェダイたち自身も、やがてクローンの攻撃に晒されることになるのだ。

 そして、EP8となる『最後のジェダイ』もまたシークエル三部作の中間に位置する、三部作の二話目である。しかし、ジェダイ。それは圧倒的に善を象徴するような存在ではなかったか。
 最後の、と言っている時点で十分ネガティブでダークサイド寄りだと見ることもできるけれど、同時に、ジェダイが必ずしも善ではないということが語られるのではないか、なんて思ったりもする。これまでの帝国やクローンといった言葉とともに、新たなる二話目のタイトルとして(たとえ「最後の」だとしても)ジェダイを並べるというのはなかなか抵抗がありはしないか。

 たとえば、二枚並べて完成するデザインのポスターがある。片方は主人公レイを中心とした善側の人物たちによる構図、対するもう一方はカイロ・レンを中心とした悪役たちによる構図だ。しかし、どちらの主人公の背後にも同じ人物の大きな顔が描かれている。
 ルーク・スカイウォーカーである。
 善と悪どちらの側にも共通する形でルークの顔があるというのは、もちろん彼こそが最後のジェダイだから、どちらの側にとっても重要な人物だからなのだろうけれど、善も悪も、光も闇も超越したバランサーみたいな印象も、やっぱりあるんだよね。フォースにバランスをもたらす選ばれし者の血を引いているのだし。

(2017年11月15日のブログ記事に加筆修正)


*追記(実際に映画を見終えて)

 やはり映画そのものがヴィジュアルに重きを置いていて、ポスターや予告編で抱いた印象の通り赤がキーカラーとなっていた。
 スノークの周囲の赤は、言うまでもなく最高指導者の力を象徴しているわけだけれど、カイロ・レンの裏切りによってスノークが絶命すると、途端にこの赤が壊されていく。赤い衛兵たちはカイロ・レンとレイの共闘により全滅させられ、戦いの最中に武器が当たったことで背後の赤い幕がみるみるうちに燃えて、広大なビューポートが姿を現して一面が宇宙空間になる。カイロ・レンが自らの手でスノークの支配から脱し、その力を象徴する赤色を排除したというわけだ。
 ついでにこの衛兵とふたりの戦いがとにかくかっこいい。スノークが死んだあと、その命を奪ったライトセイバーがレイの手に戻り、彼女が驚きながらレンを見て立ち上がると、レンの方もライトセイバーを起動する。ここでふたりが戦いはじめることも想像できたわけだけれど、すぐにそうでないことがわかる。ふたりは即座に背中合わせになって、周囲を取り囲んでいた衛兵たちと対峙する。この一連の動きがかっこよく、また主人亡き後もちゃんと職務を全うしようとする衛兵たちに感心したりする。あと、ようやく赤いひとが戦うのが見れたのもうれしい。よかったよかった。ちゃんと戦えるんだ。

 もうひとつ赤色が効果的に使われている場面といえば、クライマックスの惑星クレイトでの戦いだ。
 スキースピーダーが一本足で塩の地面を引っ掻いていくと、地中から赤い鉱石の破片が煙状になって噴き上げられていくわけだが、戦いによる流血を間接的に表しているらしく、レーザーが地面を叩いた痕なんかもほとんど血だまりのようだ。SWの世界観を壊さない範囲で戦争で流れる血を表現したうまい工夫だと思う。
 突如現れたかつての師ルーク・スカイウォーカーに、カイロ・レンは怒りの刃を向ける。走りながら斬りつけた後、レンのブーツが地面をスライディングするんだけど、そこで白い地面がえぐれて真っ赤なラインがざあっと一本走る。ルークがとうとう斬られたかというショックも手伝って、初見時には結構「わっ」と思った表現だった。あくまで地面の中から出てきた赤なのだが、ルークの腹から勢いよく血が流れたように見えてかなりショックな画だった。
 赤はとにかく強い色だ。その色の特性をうまく利用したシーンがたくさんの映画だった。


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