26: 『シンデレラ』
(2015年、ケネス・ブラナー監督)

 やっぱり皆が観たいのは後日譚前日譚とかよりも、その物語自体の実写版だと思う。よく知る物語だからこそ新たにアレンジするのだろうけれど、よく知る物語を本物の俳優や映像で観たいのだ。もちろんこの「シンデレラ」に一切新要素がないわけではない。けれど、その唯一挿入されたアレンジ要素が、今までほとんど語られなかったシンデレラの実母との思い出という、ごく自然ですんなり入って来る、本当に丁度良いアレンジなのだ。それ以上変なアレンジを加えていないので、ストーリーの進行も自然で、突っ込みたくなるところもほとんど無い。

 ケイト・ブランシェットの継母も、とても嫌なやつだったが女性としてちゃんと立体化されているようにも思えた。その嫌な性格にも少し含みがありそうだったけれど、それを決して全部語ろうとしないところが良い。あれくらいで丁度良いと思う。継母なりに思うところもあったらしいが、とりあえず悪い奴は悪い奴だから悲惨な最期を迎えなければならない、と「綺麗に」収まっている。

 アニメ版では戯画化されて邪気の無かった宮殿側の人物達も、良い具合に権威や階級に毒されていて、ステラン・スカルスガルドの大公はアニメ版のような道化ではなく、狡猾な野心家として描かれている。こういったところにこそ実写化する意味があるのではないだろうか。本物の生きた人間が演じるのは、元のストーリーをそのままトレースしたり、派手なアクションシーンを取り入れたりするためだけではないはず。生きた人間としてのキャラクターが物語に深みと奥行きを与えてこそ、実写化する意味があると思う。 

 特にCG製の妙なクリーチャーが出て来ることもなく(むしろ最新の映像技術で表現されたカボチャや動物が馬車や従者に変身していくシークエンスは素晴らしい)、徹頭徹尾「シンデレラ」を実写化することに努めていて大変好感が持てた。昨年の「マレフィセント」で消火不良を感じた人は満足できるのではないだろうか(そもそも映画のタイプが全然違うが)。 
 そういえば、継母の飼う凶悪な黒猫ルシファーも実写で登場したのは個人的に大変うれしかった。

(2015年6月1日)